ドイツにおける外務省による「少女像」展示妨害について

南ドイツ新聞の記事 https://www.sueddeutsche.de/kultur/kriegsverbrechen-japanische-reflexe-1.4562767の翻訳である。報道がないなあと思ってぼちぼち翻訳していたら週刊金曜日でこの問題が取り上げられたようだがせっかくなのでアップしておく。写真はハンブルグでの展示のものである。

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日本的反応

ケヴィン シェーアシュミット

日本の罪は否定されていないとは言え、ドイツでも「慰安婦像」をめぐって怒りがある。

8月初め日本の名古屋市の「愛知トリエンナーレ」である展示が閉鎖された。その理由は第二次世界大戦中に日本の戦地売春宿での強制売春婦として連行された朝鮮人女性に捧げられた「慰安婦像」を展示したことである。韓国人彫刻家の Kim Eun-sungKim Seo-kyungによる「平和の少女像」はこの戦争犯罪の想起のための原形の一種となっており、多くの国に存在する、このドイツにも。

だが、それを設置しようとした全ての場所でそれが可能になったわけではない。2016年9月フライブルグ市は日本の姉妹都市である松山市姉妹都市関係の中止という脅しの後、「慰安婦像」の設置を断念した。2017年3月にはオーヴァープファツのヴィーゼントでは、ミュンヘンの日本総領事の何回もの訪問の後、「慰安婦像」横に設置された二つの情報板が取り外された。ブランデンブルク州のラーフェンスブリュック強制収容所記念館の訪問者センターでは、2017年4月に数週間の間のみ小さな「慰安婦像」が展示された日本大使館はそれを取り除くように要求してきた。ラーフェンスブリュック強制収容所記念館のインザ・エッシェンバッハ館長は「もし展示が一時的なものではなかったなら、さらに拗れていたかもしれません。そのような小さな像がこれほどの騒動を引き起こすことは注目すべきことです。」と述べた。

ハンブルグでも昨年同様の騒ぎがあった。ノルトキルへ(注;ドイツ北部の福音派教会)の女性部代表イレーネ・パプストによれば、2018年8月ドロテー・ゼッレ・ハウスに一時的に展示された「慰安婦像」のオープニング直後にハンブルグ日本領事館からの電話があり、マルヤマ領事、カトウ・キクコ総領事が繰り返し像の撤去を要求した。その理由は、付属する説明文に多くの誤りがあるのに加えてこの問題は日本と韓国間の協定で最終的に解決されたというものであった。この問題について議論する共同のイベントの提案日本側から拒否されたことをイレーネ・パプストは残念に思っている。

第二次世界大戦で、日本の戦地売春宿で暴行され、概念的には「慰安婦」として矮小化された女性たちの運命は日本ではタブーである。1993年に日本政府はいわゆる「河野談話」によって軍が戦地売春宿運営していたことを認めた。多くの女性が日本の役人、軍関係者の直接的な関与もあって売春へ連行されたというのがその説明である。だが日本の現在の首相である安倍晋三はこの事実を絶えず否定し、河野談話を破棄しようとしたがワシントンの圧力からそれを断念した。ハンブルグでの出来事は当時は公表されなかった。



報道に対して日本領事館はパンフレットを送付

イレーネ・パプストは韓国人「慰安婦」の運命だけでなく日本の代表者の攻撃的な姿勢についても注目を集める事が重要であるとし、日本領事館の介入によって2018年8月に像の展示が阻止されたボンでのケースを指摘する。ボンの女性博物館館長のマリアンネ・ピッツェンによると、日本領事館の代表は彼女に「日本国がこの問題にどれだけ素晴らしい取り組みを行っているか」説明しようとしたそうである。副領事は自ら彼女にコンタクトを取って像展示の中止を要求した。

当時我々に圧力がかけられていました。」と昨年を振り返って述べる。2018年の5月から8月にかけて議論が行われ結局「外交的決定」がなされた。像は展示されず、その代わりに戦時における女性への暴力一般に注意を促す別の像が発注された。「私には納得できないものがあります。」とピッツンは強調する。

その年の6月ドルトムントの福音派教会集会においても問題が起こった。デュッセルドルフの日本総領事イソ・マサトが「ツェッヘツォレルン」産業博物館の「慰安婦像」展示に対して日本政府の不快の念を表明した。だが展示が一時的なものである事が伝えられるとそれ以上の要求は行わなかった。

ドイツにおけるこのような出来事の報告に対して、ハンブルグ日本領事館がデュッセルドルフも代表して意見を表明し、その歴史的出来事についての日本の見解についての外務省のパンフレットを送付してきた。そこではまさに「慰安婦問題」が取り扱われており、日本政府は真摯にこの問題系に取り組んでおり、「慰安婦問題」が多くの女性の名誉と尊厳に関わると認識しているが、201512月に日本と韓国両政府の多大なる外交的努力によって最終的かつ不可逆的に解決済みであるとされている。

この水曜日にベルリンのブランデンブルグ門前で、国際的な「慰安婦」メモリアルデーにちなんでNPOコリア協議会によって組織された平和的デモが行なわれる。「慰安婦像」と共に。

2019年8月13日



ハンブルグ領事によって「多くの誤りがある」とされた説明文が以下である。

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(訳)この「平和の少女像」は、第二次世界大戦中日本軍によってアジア・太平洋全域でいわゆる「慰安婦」として軍売春宿で性奴隷制度へと強制された数十万人の少女と若い女性の苦しみを記憶に留めるものです。

女性に対する暴力が時代や地域を超えたものであるのに応じて、その記憶と警告に限界があってはなりません。この記念碑はこの非人間的な制度化された戦争犯罪の犠牲者の追憶を通じて世界中の性暴力の全ての犠牲者との連帯のもとに平和を呼びかけるものです。